虹2010-02-10 Wed 01:24
国語の教科書を開くと 新しい漢字があった 虫へんに工 読み仮名には「にじ」と書いてある 漢字練習帳に何度も何度も「虹」と書いた 書くたびにそれが 先月の雨上がりに見たにじとは違うもののように 思えて仕方がなかった その日の帰り道にじをみた きれいにいろんな色がうっすらと並んで またいつかあんなきれいなにじを見ることができるだろうか 僕はそう思った 蝶々が飛んでいた どこかの航空機がにじの間を飛びぬけていった スピードを増すように 僕はいつの間にか大人になっていった あたりの空き地にもどんどんと建物が建って 流行の靴を履いてはしゃぎまわったあげく 学業に終止符を打ち就職 初給料で親に時計を買ってやったりして こんなくそ暑いのにスーツで外回りだ ネクタイを少し緩めて額の汗を拭った 空にかすかな虹 かすかな淡い虹 それは何かしらの奇跡のようにも見える 虫たちがこさえた橋げたのふもとで 俺はまるで練習帳に何事かを書き込むように 今日も見知らぬ家の玄関のチャイムを押す |
左手にある小さな青いあざ2010-02-08 Mon 04:09
時に緊張するとわたしは目を瞑り 太陽のあたりに顔を向け まぶたの裏にある血管を見る 何かが足りないのではないかと 思いながら 満たされる夢は夜の闇の中 掛け布団を抱いてどこともない場所を探す 時に興奮するとわたしは目を開き あなたの悲しげな顔を見て かきむしるようにその背中に爪を立てる 何かが訪れるのではないかと 感じながら 幼いころに 何かの加減で できた左手の甲の青い小さなあざだけが あたしという証拠なのだと思うと なぜか切なくも誇らしい |
骸(むくろ)亡骸(なきがら)頭蓋(ずがい)、水、死、渇、果実2010-02-06 Sat 01:50
父が泣いている
居間の真ん中で泣いている あんな無残なことを警察はするのか ぶつぶつ言いながら 骸は司法解剖され 死因が特定される 単なる事故死だ そして 顔さえ見れない棺に亡骸が入れられ 自宅に運ばれてくる 頭蓋骨がひどく割れてるからね 父は悲しげな笑みを浮かべて言う 僕には何のことだかわからないが とにかくその箱の中にお母さんがいるのだと言う やがてお母さんは煙になって骨だらけになった 酒の飲めなかった母のために 父はコップに水を毎日入れて仏壇に飾る 人の死というものがどういうものかは大体わかる年齢になり 僕は母の不在がどんなに僕の人生を孤独にさせたのかと 砂漠の中で乾き飢えもがくような思春期を過ごし そして そして君と出会った 君は僕を置いてどこにもいかないでおくれ 母の墓前で結婚報告をする 線香を焚いてリンゴを供える 「だいすきだったんだよ、このふじリンゴ」 「果物すきだったんだね」と君は言う 帰り道で互いの頭を悪戯にコツンとする その中に何があるのか僕らは理解できているのだろうか 父はおそらくどの地平も乾いた砂漠で 祈るように母に水を捧げていたのだ 僕は父の悲しみを思うたびに 父の苦しみを思うたびに この愛しい人を絶対に失いたくないと思う |
チャット2010-02-06 Sat 01:44
電車の始発がアパートの横を通り過ぎるたびに 朝の僕は目覚まし時計より早く目覚める 遠くで野良犬が けたたましく吠えている 保健所の車なのかゴミ収集車なのか知らないが 何かを回収して辺りを回る 昨晩のろくでもない飲み会のせいで 背広の裾がよれよれになってしまった 歯を磨くと吐き気がする ネクタイの結び方が乱雑になる そんな中で昨晩の先輩の言葉を思い出した 「こうやってみんなで喋ることって素敵じゃないか」 先輩は得意げに言う 「パソコンにはチャットというやつがあってみんないろんな話をするんだ 誰かわからない人たちとまるで仮面舞踏会のようにさ」 先輩の前歯が黄色く黄ばんでいる 「チャットというのはそもそも気楽なおしゃべりそのもののことを言うんだぜ」 ラッシュ時の電車で吐き気と頭痛に苛まれながら出社 いつもの薄っぺらいIDカードを機械に通し いつものデスクに座る 吐き気のせいか喉元で言葉は詰まり デスクの電話で心にもない曖昧な丁寧語で 気持ちのかけらもないお詫びの言葉を 僕はほとんど何も考えずに自動的に喋る 電話口の相手のことなど何も知らないままに |
間違わないこと2010-02-06 Sat 01:42
本音で語って傷つけてしまうこと 嘘で飾って喜ばせること 本音でぶつかって抱きとめられること 嘘で切り裂いて血の匂いを嗅ぐこと 正しいことと信じていても 間違っているとは信じなくても 罠を作ってしまった張本人が もしかしたら自分自身だったとしても きっと何が互いにとって 幸せなことかとよく考えたら それは 互いに間違わないようにすることなのだ と そこに思い至ることがあったとしても それが本当に全てなのか 全ての真理で答えなのか 常に精査しなければならない それが暫定的に生きるということだ |
ヤサシイ刃物2010-01-27 Wed 11:01
どんな言い訳も通用しないような
ろくでもない嘘をついて 他人を騙して生きてきた 生きるためだったとはいえ俺は完全に地獄行き 死んで苦しむくらいなら何だってやって生きてやるさ そうやって俺はくそったれどもから巻き上げてきた 作る気もなかった息子が生意気にも思春期になり おめーなんかぶっ殺してやるなんて言いやがる やれるもんならやってみろよ と 言ったとたん息子は果物ナイフで自分自身の腹を刺しやがった 俺は息子を抱え 119番し 息子の悲しげな顔を見た 俺がしてきたことは一体なんだったんだ 俺は初めて本気でそのことを考えながら救急車を待った 病院のベッドに横たわる息子は まるで何かを成し遂げたかのように安らかに寝ている 俺は初めて息子の顔をまじまじと見た こいつはこれからどう生きていくんだろう 家に帰って台所に酒を取りに行くと 血のついたナイフがまだ転がっていた この血は俺から繋がっている血なのかと そう思うと酒を飲む気も失せて 居間でただぼんやりと 扇風機が動くのをいつまでも眺めていた |
カプセル2010-01-27 Wed 10:55
君の胸の中にある小さなしこりは
君を悩ませる病気の形だ そのうち鋭い刃物で君の乳房は切られ その丸くて硬いものが取り出されるだろう 君の涙を僕は許さない、と僕は君に言う 僕は君の傷さえ愛するつもりだと そう言って 泣く君を叱る 処方されて日に3回5錠ずつも飲むそのカプセルを 僕は激しく憎む 君を切り裂くだろうメスを激しく憎む 君の流す涙の理由を激しく憎む でもその憎しみを僕は胸の奥にしまい込む 硬いしこりを閉じ込めるように |
照れ2010-01-27 Wed 10:51
昔からあこがれてた あの子がまるですっかり大人になって 晴れ着で成人式の会場に来た 僕は裾の短い兄貴のお下がり背広で 寝癖の髪を無理やりまとめてがちがちの頭 あの子が僕のことを見つけて駆け寄ってくる 照れくさそうな笑顔で 「あの日のことありがとう。覚えてるよ。」 何のことだかさっぱりわからない 成人式のくだらない式次第が一通り終わり さて、二次会は決まってるからと友人が言う あの子もぞろぞろ歩く一団の中をついてくる ろくでもない親分肌のヤンキーが乾杯の音頭をとり あの子はちょろりとなめるようにビールを飲んでいる 僕はすっかり酔っ払ってしまい トイレに行って食べたものをあらかた吐いてしまった トイレから出るとあの子が「大丈夫?はい」とハンカチを差し出す 僕は「あ、あ、ありがとう」とそれを受け取る 「あの日のことは感謝してるんだよ」とあの子は言う でもなんのことだかさっぱりわからない 二次会が終わり皆それぞれの家へと帰る 僕はなんだかあの子の言ったことが気になって 古い小学校の卒業アルバムを開いてみた 集合写真のあの子が座っているひざのあたりに 布が置いてある そこで思い出した あの子はその日初潮を迎えてしまったのだ 僕はわけもわからずハンカチを差し出した そのことをあの子は言っていたのだ 多分とても恥ずかしくてどうしようもなかったに違いない そんなあの子のあの照れくさそうな笑顔の理由が その時はじめてわかった |
旅をする2010-01-22 Fri 23:45
雪解けが近いと笑う農婆に 近い温泉を訊いた 従兄弟が死んだあの夏は暑かった 僕は思い出と戯れながら歩いた 「確かなものがあるんだよ」と祖母は言った 記憶の中で僕はそんな全てを相殺してきた 誰に合わす顔もない なだらかな坂道の向こうで少し休みたい 誰に合わす顔もない 休んだらそこらでおいしいものでも食べたい お湯で体をひたすら洗う 穢れを落とすように ただ黙々と 雪解けが近い温泉街 風だけがまだ少し冷たかった |
意気地なしの涙2010-01-21 Thu 10:06
君が苦しんでいるとき 僕はそばにいてあげられない 僕は泣くことしかできずに 君の苦しみについて考え絶望する 意気地なしな僕は 険しい岩山をよじ登って灼熱の砂漠を越え 凍えるブリザードを耐え忍び君のもとへ 君のもとへ向かう勇気もなくただひざを抱えている そんな僕のもとに一通の手紙が届いた 郵便局員さんがブリザードの中を突き進み 砂漠を越え険しい岩山を登り僕のもとへ 一通の手紙を届けてくれたんだ 「げんきにしていますか? わたしはいつもきみのことをおもっています きみもわたしのことをすこしはかんがえてくれてる?」 短い手紙だったが 二人の距離は不思議にも その短さの分だけ 狭まった気がした 涙はやがて一粒の希望になる |
底冷え2010-01-18 Mon 07:27
気温が低いわりに雪のひとかけらも降らない そんなこの街でしがない商いをしてる 売れ残って痛んだ商品を処分する 養豚業者がうれしそうにそれらを持ち去る しばらく婆ちゃんの顔も見てない 寝たきりでもうそんなに長くないという 曾孫の顔なんて見せたかったが相手がいないとしかたがない 結局何もお返しすることができないままだ 古い友人からの結婚報告が届く 缶ビール片手に幸せそうな友人とその彼女をながめる いつまでたってもうだつのあがらない俺だぜ、と 独り言を言いつつビールを飲み干す 朝が来て今日が始まる 客足は相変わらず少なめだ 氷のように冷えた水で両手を丁寧に洗う 空は良く晴れていて雲のひとかけらも見えない こんなこの街でしがない商売をしてるのさ 今日も気温が低いわりに雪のひとかけらも降らない |
3℃2010-01-09 Sat 18:49
月の下で孤独を食べて生きていた 心の中にある故郷を焦土にして 靴の底でいくつもの言い訳を 踏みにじってはただ歩く 戻れないことなど 誰よりも時計のほうが知っているよ 月は天上に輝いて 地球のどこか 記憶のどこかを太陽が照らし焼き焦がす 乾いた空気は 壊れた純朴をそっと撫でてくれるかな 夜はまだ明けない 家々の屋根もそっと熱を空へと返している |
エイリアンズ byキリンジ2010-01-09 Sat 08:10
川辺を散歩しながら頭の中でこの歌を想い描いた。
一人きりで生きていくのも二人きりで生きていくのも それぞれのかなしみがあるものだ。 補助輪無しで初めて自転車に乗る彼女の後ろ側から そっと支える。 |
日々2010-01-07 Thu 02:37
朝露が素足の裏をすっと濡らして 草原の低い草花は遥か遠く地平へ落ちる 見上げてごらん底なしの青黒い空 雲は貼り付けたアップリケみたいに動かない かすかな風はひんやりと指先をすり抜けて 太陽はほのかな温かみを顔面の辺りにくれる どこまでも自由だからどうしようもなくなって 次の一歩を躊躇してただ足元を見る どんな願いも希望もこの展望の中では とても小さいものに思えるんだ やがて夜が星空をささやかに飾り 喧騒と廃頽の中で誰もがそっと仄かに輝く星々に触れる そして『自由』と書かれた鎖を引きずったまま 奥歯を強く噛み締めて今夜も浅い眠りにつく ほら 瞼の上に夢がある |
Happy New Year2010-01-06 Wed 19:19
歩いて歩いて みんなが住んでいる街を そこで伸びをして 今日を感謝する 共有できるイヴェントを みなで享受して 喜ぶ笑顔がそこかしこ 大切な人がそばにいる 今年もよろしくね ずっとよろしくね 2010 1 6 |
そうありたい2009-12-27 Sun 14:28
すみません と ありがとう できれば僕は「ありがとう」と 言えるような人間になりたい 謝るようなことも大切だ でも 謝るようなことをしないような 人間になりたい |
人生はこんなにも2009-12-26 Sat 14:26
どこかで普通に歩けるんじゃないかな
そんな不確かな想いが背中を掻く 明日には誰かを愛せているんじゃないかな そんな小さな希望が空気のように頬を撫でる むずかしいことなどなにもない いきることをずっとやればいいのさ かんたんなことなんだよ |
両肩をつかんで君に言う2009-12-22 Tue 06:59
だいじょうぶだよ
その涙はやがて乾き どんなに暗く激しい嵐もいつか綺麗な青空に変わる 差し込むあたたかな陽射しはきっと 君の凍えを癒してくれる 何も怖いことなどない いつかすべてが輝いて見える 信じるんだ 約束する |
そのことそのもの2009-12-22 Tue 06:25
言葉にさえならなかった想いが
亡霊のように布切れのようにわたしを包む 何も言えないわたしの口にはガムテープが貼られ 両手は後ろで縛られ痛みと恐怖に涙が止まらない 腫れたのは顔だけではない このこころも激しく腫れて青黒くなった にこやかに笑うあの汚い笑顔を わたしは一生忘れないだろう でも 忘れられる日が来ることを祈る |
快速急行2009-12-16 Wed 00:54
何もかもが遠くに消えていく まっすぐ前に誰もが向かってる 電気は原子力で常時供給され 原子爆弾の記憶は寿命みたいに薄れる 電車のドアが開き構内を歩くと 階段の下のほうに寝てる人がいる その横で店の呼び込みをしている人がいる 一生懸命な笑顔がなんだか記憶にとどまる しばらく歩く そこはわたしの家 わたしの楽園 そこではじめてわたしは安らげる 愛情もへったくれも全部いらないから捨てた わたしはわたしとして生きる |













